質問と回答 (採点対象)

第2回 (4月19日)

この授業は質問を採点の対象にしています。 詳しくは、 ここを 見て下さい。

2回は、なんと7人もの人が質問してくれました。 とても嬉しいですが、授業が分かりにくかったのではないかと心配です。

ホームページで公開不可、とは書いてなかったので、掲載しました。 (掲載に関して間違っていたら至急連絡して下さい。) 下線の上に私の回答があります。


質問. (採点結果: 4点)

分子の重心運動・回転・スピンを、 全て独立で考えられるのは何処ですか。

この授業では、 問題の設定としてハミルトニアンから出発することにしているので、 ある運動が独立かどうかは、ハミルトニアンから判断します。 量子力学でも古典力学でもやったと思いますが、 ハミルトニアンが重心運動+回転+スピンというように、 それぞれの運動の和で書ける時、独立と考えられます。 今の場合は、スピンはハミルトニアンにないので、 和になっていると考えられます。 もし、和で書ければ、カノニカル分布の場合、 分配関数は積になるのはすぐわかります。 ここで重要なのは、運動が独立の時、確率が積で書けるのは、 カノニカル分布の大事な性質で、すべての集団にあるわけではないことです。 たとえば、ミクロカノニカル集団にはこの性質はありません。

採点の仕方を具体的に言っていなかったので、 申し分けありませんでしたが、 その日の授業の重要なポイントを押さえているか採点の決めてです。 19日の授業のポイントは

核スピンの扱い、回転の古典的な計算と、量子力学的な計算

の3つになります。 このポイント以外についての質問は、4点満点で採点することにします。 この質問の場合、もちろん授業と関係しているので、3点はありますが、 ポイント以外でしかも質問の長さが短く、 どれくらい分かっているか分からないので、プラス1点にしました。 とにかく、理解度が分かるように長く質問して下さい。

質問. (採点結果: 8点)

@ A、B2種の異核2原子分子の、回転運動の分配関数 Zrを古典的に求めた時、(式略) となりました。 又、量子論的に求めたとき、回転運動のエネルギー準位は、 (式略) としました。 ここで、高温の極限のとき、オイラーマクローリンの公式より (式略) となり、古典論と一致しました。 次に低温の極限では、(8.5)式に直接数値(J=0,1,---) を代入して求めていますが、 なぜ直接代入すれば良いか分かりません。

(8.5)式は指数関数の因子がかかっています。 したがって、温度が低い場合、 この指数関数はJの値が大きいほど小さくなります。 つまり、大きい値のJは、足し算に寄与しません。 これは、低温のときには、小さいJだけを考えれば良いことを示しています。 J=0は、温度によらないので、 比熱は低温の極限ならばJ=1だけ計算すれば充分ということになります。


A オイラーマクローリンの公式(式略)は、0<x<無限大 で無限回微分可能な関数 f(x) に対して用いる事ができるとの事なので、それが、 なぜ高温の場合のみ用いるのかよくわかりません。

オイラーマクローリンの公式は、 教科書でも点々が書いてあり、項がまだ続くかのようですが、 実際に無限に続く数列で表されます。 私は不勉強のため、 それが収束列なのか漸近列なのか分かりませんが、 いずれにしろ、無限まで足すのは無理なので、 途中で切らないといけません。 途中で打ち切ったときの誤差は、(8.7)式から、 高温になればなるほど小さくなります。 つまり、低温ならば、 (8.7)式の右辺の項をたくさんとらなければいけませんが、 高温であれば、最初の項を少し取れば、充分良い近似になるわけです。 そういう意味で、高温のときにこの展開を使うわけです。


B 分配関数は、Z1=ZGZrZsとできるという事でしたが、 久保亮五「熱学・統計力学」P325〜P326では、 最低電子状態の縮重度ge(ge=1)が 加わっていますが、本文の説明が良く理解出来ませんでしたので、 教えて下さい。

どうも私の持っているのは、版が違うのか、P325〜P326に見当たりません。 しかし、確かなことは 「最低電子状態」というのを、この授業では説明していないということです。 「熱学・統計力学」の第7章の基礎事項にあるように、 分子の内部自由度に関しては、電子状態、原子核の状態、回転、 分子内部の振動の4種類あります。 このうち授業中に扱ったのは、原子核の状態(スピン)と回転だけで、 分子内部の振動は宿題にして、電子状態はまったく触れませんでした。 分子はもちろん、電子を持っていますが、電子の運動も当然、 比熱に効いてきます。 電子は古典的な粒子ではありませんので、 量子力学で扱わなければなりませんが、 励起状態はとても高いところにあるので、室温では励起されず、 さらに、励起するぐらい高い温度では電離がおこるので、 励起状態は考える必要がありません。 そうすると、核のスピンと同じで縮重度だけが問題で、 基底状態の縮重度をZGZrZsにかけなければいけません。 ただし、2原子分子ではたいていの場合は基底状態では縮重しません。

この人は、 核スピンの扱い、回転の古典的な計算と、量子力学的な計算 のうち核スピンの扱い以外はほぼ完全に理解していると分かるので、 7点満点のうち2/3で5点を採点しました。 つまり、3+5で8点です。 とりわけ重要なのは、

たくさん書いてくれたこと

で、 とにかく質問と関係なくても分かったことをたくさん書いてくれれば、 質問の点も高くなります。

質問. (採点結果: 6点)

教科書124ページで、高温の極限(T>>Θr)では、 回転運動の分配関数が、
jrot(T) = T/Θr = 2IkBT/x2
(xは、プランク定数を2πで割ったもの、いわゆるエイチバアー: 吉森注) と近似してあって、 これが古典力学に従う剛体回転子の分配関数と一致 すると書いてあるのですが、授業でやったように、 ハミルトニアンから積分を行って、分配関数を求めると、
j'rot(T) =8π2IkBT/x2 =4π2jrot(T)
となって一致しないのはどうしてでしょうか? 上の2式は同じ意味ではないのですか?

一部に特殊な文字を使ったので、もし見れない人がいたら、ごめんなさい。 この人が質問している不一致は、 j'rot(T) の分母を x2 にしていることから生じています。 そうではなくて、h2と 2πで割らないプランク定数そのもので割るのが正しいです。 つまり、正しくは
j'rot(T) =8π2IkBT/h2
で、j'rot(T)とjrot(T)は、一致します。

ここでのポイントは分配関数を計算するときに xではなくて、hで割る 事です。 なぜ、プランク定数 hで割るかは、またいろいろ楽しい問題があります。 まず、古典統計力学の範囲からは、もちろん説明出来ません。 また、実験的にも古典的な理想気体だけを扱っていれば、 決して出てきません。 そういう意味では、古典統計力学の範囲では、 分配関数を hで割るのは「重要」ではないのです。 もちろん、量子統計力学の答えを高温にすると、 プランク定数で割ったものがでてきます。 つまり、量子力学で扱ったものを高温にしてみたときだけ、 この問題が意味を持つのです。 このことについては、もっと言いたいことがあるのですが、 聞きたい人は、直に部屋に来て下さい。 もし、3時ならばコーヒーをご馳走しながら、説明(演説?)します。

この質問は、3つのポイントのうち回転の古典的な計算は、 プランク定数のところを間違ったとはいえ、理解しているのがわかり、 さらに、量子力学的な計算も、 少し分かっていることが伝わるので、7点満点のうち2+1点で、 あと3点足して6点と採点しました。


質問. (採点結果: 7点)

<I>黒板の板書では古典系の回転による分配関数は 8π2IkBT/h2、 演習問題では 4π2IkBT/h2、 (等核だから異核の1/2) となることは計算をすることで確認しました。 ところがテキストのP124の(8.6)式によると T>>Θr では jrot(T)の和を 積分で近似すると古典系と一緒になると書いてありますが、 実際に計算してみますと (式省略) jrot(T)=2IkBT/h2 となり上の分配関数と一致しませんなぜなのでしょうか. 他の本をみたところ、 er=J(J+1)h2/8π2I とし、 Θr = h2/8π2IkB としてありました。 これなら上の分配関数と一致します.

直前の質問の人とほとんど同じ質問で、びっくりしました。 ただ、この方の場合は(8.6)式の Θr(文字化けしていたらごめんなさい)の中にあるプランク定数が 2π で割ったもの(いわゆるエイチバー)だと思わなかったことが不一致の原因です。 さっきの人とは正反対ですね。 つまり、2π で割ったものをxとすると、
Θr = x2/2IkB = h2/8π2IkB
が正しく、教科書とこの方が見られた別の本は一致します。


<II>類題(8.12)の<解>の所で、 式1(PDF)
この近似はどのようにしたのでしょうか。

ここは、時間がなくてきちんと説明しませんでした。 申し分けありません。 この計算では充分低温のときを考えていて、 したがって1/Tは大きくなります。 そうすると、指数関数の部分は小さくなるので、対数のテーラ展開、 ln(1+x)=x+・・・を使って、近似しました。

採点はほぼ前の方と同じですが、<II>の質問があったので、 1点プラスしました。


質問. (採点結果: 4点)

回転運動について量子論的に解いたところのエネルギー固有値と縮退度が
式2(PDF)
の意味がよく分かりません。

これは量子力学でやったと思うのですが、どうでしょう。 今少し調べてみたら、どうも量子力学Iでは、 最後に結果だけしか示していないようです。 式2は、角運動量と関係していているのですが、 量子力学IIの「量子力学のおける角運動量」のところで 詳しくやると思います。 それまで待って下さい。 待てない人は、3時に私の部屋に来て下さい。 コーヒーをご馳走します。

採点は、ポイントをきちんと分かっているかどうか分からなかったので、 1+3で4点にしました。


質問. (採点結果: 3点)

式3(PDF) は成立するのか。

これも、前の人と同じですね。 申し分けありませんが、ここでは説明する余裕はないので、 部屋に直接来て下さい。

採点は、1行しかないので、3点だけにしました。 とにかくたくさん書いてくれると、それだけ点が高いと思って下さい。


質問. (採点結果: 5点)

質問1. 8-2 異核2原子分子の(解答)において、 ZGは、4.3で計算ずみ(4.22)式というところで、 この場合、古典理想気体で計算してありました。 (1)の古典論では同じ方法なのでよいと思いましたが、 (2)の量子論でも同じ方法で計算してよいのですか。

すみません。 説明が悪かったのだと思いますが、量子論で扱え、と言ったのは、 回転運動だけで、並進運動は古典論だけで構いません。 でも、並進運動も量子論で扱うとどうなるかは、おもしろいので、 少し考えてみます。 というか、実は教科書の108ページに書いてあります。 (7.39)式で波数についての足し算を掛け算に変えるところがありますが、 それが古典極限で、それをせずに(7.37)にしたがって和をとれば、 量子力学で厳密に扱ったことになります。 和を積分におきかえるのがなぜ次次回詳しくやる予定です。


質問2. 質問1と内容がかぶりますが、古典系の分配関数
Z=∫Πldqldpl exp[-βH(qlpl)]
というところで、 一般化座標 qiと一般化運動量 pi を独立変数として扱ってありますが、 交換子[qi,pi]=ihδijとなって、 いるので、同時観測可能でないので、独立でない気がしました。 だから量子系での分配関数
Z =Σnσnexp[-βEn]
の h→0の極限において成り立っているのですか?

上の分配関数の式は古典系の式なので、 不確定性などの量子力学の効果はまったく考えなくてもいいです。 したがって、運動量と位置は独立に扱っても構いません。 もちろん、 h→0 の極限で成り立ちます。 ただ、分配関数の中に h があるのが気になると思いますが、 それはなかなかおもしろい問題です。 つまり、そのまま h→0 とすると、分配関数は発散してしまうということです。 もっとも、自由エネルギーにすると定数分ずれるだけなので、 問題はありません。 おそらく、大事なことは古典系だけ考えていれば、 プランク定数は必要ないということです。 量子力学から極限をとった時だけ分配関数を h で割らないといけないというわけです。

採点は、質問自身はとてもよいところを聞いていると思うのですが、 このままではポイントを分かっているかどうか分からないので、 2つの質問をそれぞれ1点にして、2+3で5点にしました。


前回(4月19日)のポイントですが、 同核2原子分子の分配関数の計算 について、(1)オルソとパラを足すこと(4点)、 (2)スピンの縮重度(2点)、(3)回転の分配関数(1点) の配点で採点します。 これらのそれぞれについて、 自分の理解度がわかるように質問を書いて下さい。 最低でも3つ質問しなければ10点は取れません。

また、来週のポイントですが、 (1)フェルミ粒子とボーズ粒子とは何か? (2)微視状態の数え方 (3) 大分配関数の計算 の3つです。


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