質問と回答 (採点対象)

第4回 (5月10日)

この授業は質問を採点の対象にしています。 詳しくは、 ここを 見て下さい。

今回も、結構多くの方が質問してくれました。 質問に回答するのがかなり大変になってきましたが、 頑張りますので、最後まで読んで下さい。

ホームページで公開不可、とは書いてなかったので、掲載しました。 (掲載に関して間違っていたら至急連絡して下さい。) 下線の上に私の回答があります。


質問. (採点結果: 5点)

ボーズ粒子とフェルミ粒子は、それぞれ
ψ(1,2,---,N) = +-ψ(2,1,---,N)
を満たすものであるという定義として、 プリントの(1)フェルミ粒子とボーズ粒子の(5)と(6)の間に 「特別な条件を満たす波動関数しか存在しない」 とありますが、同種粒子だけでなく一般にも成り立つのですか。

成り立ちません。 ボーズ粒子とかフェルミ粒子とかの話しは

同種粒子だけの性質

です。 それは、違う種類の粒子を入れ替えると、 エネルギーが変る場合があることを考えれば分かります。 エネルギーが変れば、違う状態である事ははっきりするので、 議論の余地なく区別できるということです。

今回のポイントは、

  1. フェルミ粒子とボーズ粒子とは何か?
  2. 微視状態の数え方
  3. 大分配関数の計算
  4. 状態密度とは何か?
の4つです。 この質問は、とても重要だと思いましたが、 ポイントを理解しているかどうか、よく分からなかったので、 3点にしました。

質問. (採点結果: 4点)

[I] フェルミ粒子は同じ状態に2つ以上粒子が入れず ボース粒子は何個でも入るということはわかりましたが フェルミ粒子のスピンは1/2、 ボース粒子のスピンは1と決まっているのですか. 例外はないのですか. 決まっているとしたらどのようにしてそれが示せる(証明)できるのですか. 電子のスピンは1/2なのでフェルミ粒子ですが、 電子に関するパウリのスピン行列と パウリの排他律とは関係があるのでしょうか. 例えば一方から他方を証明できるとか.

フェルミ粒子のスピンは半整数つまり、1/2, 3/2, 5/2,---、ボース粒子は整数、 1, 2, 3, --- と決まっています。 例外はありません。 それをどのようにして証明するかは、第3回の質問でもありましたが、 私には解りません。 何か教員としてあるまじきことかもしれませんが、お許しください。

スピン行列と排他律の関係は、

電子のスピンが1/2ということ ---> スピンの各成分の(代数)関係 ---> スピン行列
という順番で導けるのに対し、
電子のスピンが1/2 ---> 電子はフェルミ粒子 ---> 排他律
となっています。 ですから、どちらも電子のスピンが1/2から導けますが、 逆の矢印については、スピン行列から出発して電子のスピンは1/2、が導けるので、 結局、スピン行列から排他律は導けます。 排他律から出発する方は、そこから電子がフェルミ粒子というのを導けるかどうかが、 よく解らないので、スピン行列が証明できるか解りません。

[II} 「各固有状態 k に --- 」 ここでなぜ各エネルギー固有状態と書かないのですか? わかりきっているから書かないのですか?

申し訳ありません。 ただの固有状態もエネルギー固有状態も全く同じ意味で使っています。 ちゃんとそれを言わなくてすみません。 指摘されている部分がどこかよくわかりませんが、今後気を付けます。


[III] グランドカノニカル分布では各固有状態に入る粒子の個数は 互いに独立なので Ξ = ΠkΞk で Πk がつくことはすぐわかります。 宿題でもそうでしたが、 フェルミ、ボース粒子を考えている時点で量子状態を考えており それに付随するエネルギー固有状態の個数に目を付けるということも わかりますが、P44の2準位系の説明で 「例えば、上向き又は下向きの2つの状態 ---」 の所で思ったのですが スピンは上向き下向きしかないので 当然エネルギーを対応させてやれば エネルギー固有状態は2個で ε、-ε しかとりようがなくわざわざ ΠkΞkとかかずに Ξ- Ξ+ と書けば、よいのではないかと思います。 (ΠkΞk だと Ξ1, Ξ2, ---, と思ってしまいそうです。) それとも Ξ1, Ξ2, ---, と続いていくようなことがあるのでしょうか。 だとしたら、上の議論のどこが間違っているのでしょうか。

粒子の自由度として、 スピンの自由度があるということは説明したとおりですが、 古典的な自由度、位置の自由度はもちろんあるわけです。 例えば、水素原子の電子のように、 原子核に束縛されている電子を例にとって説明すると、 スピンとは別に、位置 x,y,z から、n,l,m などの3つの整数で指定される、 固有状態があるわけです。 ですから、この場合は、上向き下向き以外に n,l,m の状態がとれます。 授業で説明したのは、箱の中にある粒子で、位置から nx,ny,nz の3つの数の組で表される状態が無限に出てきます。 もし、粒子が電子であれば、それにプラス上向き下向きで、 2とおりの状態が加わるわけです。 教科書では、g という記号を使ってそれを考慮していました。 以上のことから最終的に、Ξ- Ξ+ ではなくて、Ξ1, Ξ2, ---, が正しいです。

[III] の質問がポイントと関係しているので、 1+3 = 4点にしました。


質問. (採点結果: 6点)

質問1、量子力学ではN個の粒子の微視状態を、 それぞれの粒子の位置 ri にスピンの自由度 Si を加え、これを波動関数 ψ(r1,S1,r2,S2,---,ri,Si,---,rN,SN) = ψ(1,2,---,i---,N) で表すということだった。そして、粒子の入れ替え (1番目の粒子 <---> 2番目の粒子)に対して
ψ(1,2,---,i---,N) = +-ψ(2,1,---,i---,N)
となり、+をとるときがボーズ粒子で、 -をとるときがフェルミ粒子だった。 -をとるフェルミ粒子はどの2個の粒子の入れ替えに対しても 波動関数が反対称な粒子だということが分かった。
具体的に2個の粒子に対して例えばψ(1)φ(2) とφ(1)ψ(2) との 重ね合せが考えられるということだったが、ψ(1)φ(2) 又はφ(1)ψ(2) と書けるのはどうしてですか。
また、ψ(1)φ(2) +φ(1)ψ(2) のときがボーズ粒子で、 ボーズ粒子はφ=ψのとき、2φ(1)φ(2) となり、1つの状態(同じ状態)にいくらでも入れることになる。 フェルミ粒子のときはψ(1)φ(2)-φ(1)ψ(2) でφ=ψのときφ(1)φ(2)-φ(1)φ(2) = 0 となり同じ状態に1つしか入れないことがわかった。 これを図で考えるとき下の図であっていますか.
---●1---●2--- - ---●2---●1--- ;φ(1)φ(2)-φ(1)φ(2) = 0

今はエネルギーの固有状態を考えているので、ψ(1)φ(2) やφ(1)ψ(2) がエネルギーの固有状態になっていることを説明すれば、 いいですね。 ここでは理想気体を考えているので、授業でやったように、 全体のハミルトニアンは、1粒子のハミルトニアンの和で書けます (教科書P109(7.43)参照)。 ψやφは、1粒子のハミルトニアンの固有関数だから、 2つの粒子全体のハミルトニアンの固有関数は、 その積で書けます。 したがって、固有関数というだけでは、ψ(1)φ(2) やφ(1)ψ(2) は、その条件を満たすということになります。 しかし、実際はフェルミ粒子とボーズ粒子ということを考えると、 これらの状態は許されません。

図についてはまったく正しいです。


質問2、理想気体のグランドカノニカル分布を計算するときに、 微視状態 {nk} を指定する必要が出てくるが、 1粒子の固有状態に番号をつけて k = 1, 2, --- で表すと微視状態は
(表略)
{nk} = {2, 1, 0, 1, ---} と指定できるということでしたが、 1粒子の固有状態はどれも同じなのですか。

1粒子の固有状態はどれも違います。 したがって、{nk} で指定した状態はエネルギー固有値も違うし、 まったく別の状態です。 大事なことは、粒子に番号を付けて数えると、同じ {nk} でも、2!1!0!1!×---×nk×--- だけ違う状態が含まれるのに対し、 ボーズ粒子やフェルミ粒子は、これを1つと数えることです。


質問3、グランドカノニカル分布では N = Σknk という条件はなく 各固有状態に入る粒子の個数は互いに独立というのは、 プリント(2)でやった微視状態の数え方のところで分かりました。 でも、カノニカル分布で N = Σknk という条件で粒子数が決まっていて
{nk} = {n1,n2,n3,---} のn1、n2、n3 は互いに独立でない.
というところが良く分かりません。

例えば、粒子数が3つしかない場合を考えましょう。 n1 = 1 で、n2 = 2 であれば、n3 は必ず 0 です。 つまり、n3 は、n1 と n2 に対して独立ではなく、 n1+n2+n3 = 3 という条件のために、勝手な値をとることが出来ないのです。 これはもちろん、n3だけではなくて、他の数も互いに独立ではありません。

質問1.は、「フェルミ粒子とボーズ粒子とは何か? 」 というポイントはわかっていそうだったので、 2点をプラスして5点としました。


質問. (採点結果: 3点)

ボーズ粒子のとき、
Ξk = Σn=0 exp[-βnεk+βμn]
= (1-exp[-βεk+βμ])-1
は、無限等比級数での近似なので、 n が小さいと成立しないのではないか?

無限等比級数の計算は近似でなく厳密に出来ます。 つまり、公比を r とすると、 Σn=0rn = (1-r)-1 で、この公式は n の大小とは関係ありません。 ただし、r<1 でなければ、級数は収束しないので、ここで重要な条件、

化学ポテンシャルは、最小の1粒子エネルギー固有値より小さい。

が導けます。

理解しているかどうか分からない質問だったので、3点です。


質問. (採点結果: 4点)

ボルツマン統計の微視状態の数え方について、 教科書のP112の式では
ZMB(T,V,N) = (1/N!) Σ{nk}, Σknk=N N!/(Πknk!) e-βΣknk
= (1/N!)[Z(T,V,1)]N
となっていて、後の式では粒子を区別した後に N! で割っているというのが分かるのですが、 前の式では二重に割っているような気がしてしまいます。 どう考えればいいでしょうか。

基本的には前の式でも粒子を区別して N! で割っています。 そうでなければ、後の式と = でつなげないですものね。 ポイントは微視状態の指定の仕方に2通りあるということです。

1つめは、後の式で、粒子に番号をつけて、 i番目の粒子が何番目の固有状態(*注)にあるかで指定するやり方です。 例えば、1番目の粒子が1番目の固有状態、2番目の粒子も1番目の固有状態、 3番目の粒子が4番目の固有状態、4番目の粒子が2番目の固有状態にある時、 {k1,k2,k3,k4} = {1,1,4,2} と指定できます。

*注 全体のハミルトニアンの固有状態ではなく、 あくまでも1粒子のハミルトニアンの固有状態。 ここを結構間違える人が多いので気をつけてください。

2つめは、前の式で、 k 番目の固有状態に何個入っているかを指定するやり方です。 この場合は、プリントにも書きましたように、 {n1,n2,n3,n4} = {2,1,0,1} となります。 ところがボルツマン分布の場合、2つめの指定の仕方だと、 数え不足が起こります。 つまり、1つめのやり方で、{k1,k2,k3,k4} = {1,1,4,2} と、{1,1,2,4} は、2つめのやり方でどちらも {n1,n2,n3,n4} = {2,1,0,1} になってしまいます。 したがって、そのまま足し合せるのでは足りないことになります。 足りない分は、N!/(Πknk!) で補正できますが、なぜ補正できるかは、宿題にしましょう。 ご自分で考えてみて、分からなかったらまた聞きに来て下さい。

この質問は2番目のポイント「微視状態の数え方」 と関係していたので、1+3 = 4点です。


質問. (採点結果: 3点)

εk: k 番目のエネルギー準位のエネルギー固有状態
f(εk) = 1/(exp[ε-μ]/β+1): εkの準位にある粒子数の平均: f(εk) < 1
N = D(ε)・Δε
D(ε); エネルギー準位をε付近の単位間隔あたりの エネルギー準位の個数(図だと本数)
Δε: 微小間隔(ε付近の)
N: Δε の間隔内のエネルギー準位の個数(本数)
N = Σkf(εk)   N: 全粒子数
(エネルギー準位の個数の N と全粒子数の N は) 一致しないハズ 授業では同じ N で混乱しました。
Σif(εi) ・Ni = Σif(εi) ・D(εi )Δεi ---> Δε->0 --->
∫ f(ε)D(ε)dε = N 」
上の赤線(*吉森注 黒の下線)の式へ近似するとき、 k は全てのエネルギー準位までの値をとりますが、 i はそれを大ざっぱに区切ったものなんですか?
(図省略)

「大ざっぱ」の意味合いがよくわかりませんでが、i と k の違いは、k は間隔が違うのに対して、i は等間隔に区切るということです。 したがって、 その同じ間隔の中に何本準位が入っているかという情報が必要になります。 その数と全粒子数を同じ記号 N にしたのは失敗でした。 申し訳ありません。

この方は、ポイントの1つ「状態密度とは何か?」は、分かっていると思われるので、 2+3点ですが、遅れて提出されたので、0.6倍の3点です。


前回(5月18日)のポイントですが、 (1)状態密度の計算(2)フェルミエネルギーの計算(3) 熱力学量の計算 です。

また、5月25日のポイントですが、 (1) 絶対零度に限らないフェルミ理想気体の一般的な性質、 (2) 熱力学量の低温での展開、(3) 波数空間の計算の仕方 です。


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