質問と回答 (採点対象)

第6回 (5月24日)

この授業は質問を採点の対象にしています。 詳しくは、 ここを 見て下さい。

回答がおくれまくりですみません。

ホームページで公開不可、とは書いてなかったので、掲載しました。 (掲載に関して間違っていたら至急連絡して下さい。) 下線の上に私の回答があります。


質問. (採点結果: 5点)

前回、 1辺Lの箱に入れられたN個のフェルミ気体のフェルミエネルギーについて、 フェルミ波数を求めることにより議論しました。(P143演@)
@ 固有状態について、 1つの方向に2π/Lの間隔で並んでいると言うことでしたが、 それは周期境界条件 ki=2πni/L (ni=0,±1・・・・) から導かれてました。周期境界条件について、解説をお願いします。 ki=2πni/Lの導出理由がわかりません。

これは、 前回の質問 の最初のと同じです。 回答はそちらを見て下さい。


続いて、T=0の理想フェルミ気体で、E=3/2PVを示しました。 グランドポテンシャル J(T,V,M)=(式省略)より、理想フェルミ気体なので、 (式省略)よりgD(ε)=D0εα ただし、D0=(式省略), α=1/2として、Pを計算しました。 PV/kBT=D∫0εαln(1+zexp[-βε])dε 積分を実行するとき、
Aε=kBTX に変数変換するのですが、 意図することがよくわかりませんでした。 その後、Eを計算し、比較して、E=3/2PV が示されました。

このように積分変数を変換すると、 積分自身は計算できなくても、どんな物理量にも依存しないただの数になることがわかります。 特に温度の部分だけを外に出すことができ、P や E が温度の2分の3乗になることがわかります。 ただ、よくよく考えてみると、 E = 3/2 PV を示すだけなら、 この変数変換をしなくても良いようです。


最後に、Tが充分小さい時、N,V,Tの関数として、M,E,Cv、Pを求めました。 まず、Jについて、フェルミーディラック積分より
J ~ J0{1+(5π2/8)(kBT/εF)2}  また J = -(2/5)N0εF より
J ~ J0 -(2/5)(5π2/8)N0(kBT)2/εF
そして、微小付加価値の定理より、△J=△Aを求め、これにより
△J = -(π2/4)N0(kBT)2/εF, △A = -(π/4)N(kBT)2/εF を求めました。
B NとN0について、ちがいがよく分かりません。
よって、Cv = (π/2)NkB2T/εFとなりました。教科書では、 Cv~NkB(π2/2)(kBT)/εFとあるので、 N の扱いがすっきりしませんでした。(πが1つ多くかけている所)

N と N0 は、イコールで結べる同じ量です。 同じ量ならば同じ記号にするべきですが、少し気分が違うので、 別の記号にしました。 つまり、変数を何に取るかを明示したかったのです。 ここでは、温度について展開しているのですが、 A=f(T,N)として、

A = f(T,N) = f(0,N) +f1(0,N)T +f2(0,N)T2/2 + ・・・ = f(0,N) +ΔAn + ・・・
と、A = g(T,μ)として、
A = g(T,μ) = g(0,μ) +g1(0,μ)T +g2(0,μ)T2/2 + ・・・ = g(0,N) +ΔAm + ・・・
とすると、ΔAn と ΔAm は、イコールになりません。 N は、最初のfの気分で、 N0はμ(フェルミエネルギー)の関数として考えていて、2番目のgの気分です。

それから、もし、板書を Cv = (π/2)NkB2T/εF と書いていたら、それは、書き間違えで、教科書 NkB(π2/2)(kBT)/εF が正しいです。

今回のポイントは、

  1. 波数空間での計算
  2. E = 3/2PV
  3. 低温の展開
の3つです。 この質問は、最初の質問は、むしろ前回の内容なので、 3かけ0.6の四捨五入で2点、 あとは、それぞれのポイントに関するものでしたが、 どれくらい理解しているかわからなかったので、3点であわせて5点です。

質問. (採点結果: 3点)

微少付加値の定理は一般的に成立しますか?

微小付加値の定理はもっと一般的に表現すると、

ある展開パラメータ x があったとき、展開の全ての次数で、 内部エネルギー、ヘルムホルツの自由エネルギー、エンタルピー、 ギブスの自由エネルギー、J の展開係数は全て等しい。

と書けます。 たとえば、ヘルムホルツの自由エネルギーを A = A(T,V,N,x)と書くと、展開は、
A = A(T,V,N,0) +A1(T,V,N,0)x +A2(T,V,N,0)T2/2 + ・・・ = A(T,V,N,0) +ΔA(T,V,N,x) + ・・・
となりますが、内部エネルギー E = E(S,V,N,x) も同様に
E = E(S,V,N,0) +E1(S,V,N,0)x +E2(S,V,N,0)T2/2 + ・・・ = E(S,V,N,0) +ΔE(S,V,N,x) + ・・・
とすると、

ΔA(T,V,N,x) = ΔE(S,V,N,x)

になります。 証明は簡単ですので、皆さん挑戦してみて下さい。 詳しくは「ランダウリフシッツ統計物理学上」第3版P63にあります。

ポイントがわかっているかどうか、 判断できなかったので、3点にしました。


質問. (採点結果: 3点)

<I> P137の一番上の行の PV/kBT = Σεln[1 + e-β(ε-μ)] (eの前に)ここにzが入るのでは?

z = exp[βμ] なので e-β(ε-μ)と書いてあるときは必要ありません。 でも、教科書も z を使うかμを使うか、統一して欲しいですね。


<II>グランドポテンシャルを用いて積分する際に ガンマ関数を使って表記すると便利であることは テキストを読んでよくわかったのですが、 板書でわざわざαを用いたのはなぜですか。 後々何か良いことでもあるのですか? あと前から思っていたのですが、なぜド・ブロイ波長を使わないのですか? そうすればもっと簡単に書けると思います

αを使って一般的に証明したのは、 当然、演習問題[6]でやった場合も考えたかったからです。 授業でもやりましたが、P145の(4)は、絶対零度でなくても成り立ちます。

ド・ブロイ波長は、最初準備していたのですが、 逆に説明する時間が取れなくて、結局使いませんでした。 おっしゃるとおり、ド・ブロイ波長を使うと簡単に書けます。


<III> <例題1>E=3/2PV を示したが、 これを示して何がうれしいのでしょうか? この計算過程でないとE=3/2PVが示せないとしたら、 うれしいと言うことは何となくわかります。

何がうれしいかはひとによりますが、E=3/2PVだけを示すのであれば、もう少し簡単に示せます。 6月21日の授業でもやりましたが、温度の依存性を調べるのでなければ、 変数変換も必要ないです。 実はこの関係はエネルギーが運動量の2乗に比例するような理想気体一般で成り立ちます。 それは、フェルミ統計に限らず、ボース統計もそうだし、ボルツマンでもそうです。 しかも、全ての温度領域で成り立つとても一般的な式です。 私はそれがうれしいです。


<IV> 板書の最後の方で μ = (∂A/∂N)V,Tとありますが、 これは何を意味するのですか、またどのように使うのですか?

これは熱力学の関係式で、 教科書ではP10表1.1を見れば分かるようになっています。 詳しい説明は、熱力学の教科書を見てもらうことにして、 ここでは、温度が絶対零度から少し上がったとき、 熱力学量が絶対零度のものどうずれるかを導きたかったわけです。 特に化学ポテンシャルがフェルミエネルギーからどうずれるかを示すのに、 この公式を使いました。 つまり、まずヘルムホルツの自由エネルギーのずれを出し、 それからこの公式に代入して化学ポテンシャルのずれを出しました。 この順番は、教科書のやり方と違いますので、注意して下さい。

ポイントを理解しているかどうかわからないので、3点です。


質問. (採点結果: 5点)

@§9.3.1の例題 「T≠0の理想フェルミ気体で、E=3/2PVを示せ」 でgD(ε)=D0εα(式省略)として
(式省略)
を部分積分して
PV/kBT = D0β/(α+1)∫0 εα+11/(1/z exp[βε]+1)dε −@
となり、ε=kBTxに変数変換して
(式省略)−A
が得られました。
 またエネルギーEを (式省略) から
E = D00 εα+11/(1/z exp[βε]+1)dε−B
xに変数変換して
(式省略)−C
となっていました。
 授業ではxに変数変換したあとの式AとCを比較して PV=2/3Eが得られていましたが、 xに変数変換する前に@とBでPV=2/3Eをしても良いのでしょうか。

これはまったくそのとおりです。 式変形を良く理解されましたね。 前の質問にも答えましたし、6月21日の授業でも説明しました。 PV = 2E/3 を示すだけなら、変数変換しなくても良いです。


A§9.3.1の例題の解答の最後に書いてある
「α = (3-a)/a => α+1 = 3/a -> PV = (a/3)E <--- (4)」
の最初の式 α = (3-a)/a の意味と、aが何を指しているのか教えてください。

授業で言ったつもりになっていましたが、 この a は、教科書P144演習問題[6]のε= Apaの a です。 この問題から状態密度はα = (3-a)/aとなることがわかりますから、 それを求めた式 PV = 1/(α+1)E に代入すると、演習問題[6]の(4)と同じ答えになります。 演習問題の方は絶対零度で示しましたが、 今の議論から、絶対零度でなくても成り立つ事が分かります。


B§9.3.1の例題のところで、微少付加値の定理、△J=△Aを用いて
(式省略)
となり、S = -(∂A/∂T)VN = (π/2)NkBT/εF
Cv = T(∂S/∂T)VN = (π/2)NkB2T/εF
が得られましたが、 △A、S、Cvのπはπ2になると思うのですが。  あと、NとN0の間にはどんな関係があるのでしょうか

前の質問でもありましたがπ2が正しいです。 どうも板書を間違えたようですね。 申し分けありません。 N と N0も前の質問で説明しました。

最初の質問で、 ポイントのE = 3/2PVの導出を完全に理解しているのがわかったので、 2+3=5点です。


質問. (採点結果: 3点)

理想フェルミ気体の場合、Pauliの排他原理により、 1つの準位に1つしか入ることが出来ないため、 絶対零度であっても古典理想気体のように大きさが0になることはない。 また高温においては1つの準位に1つしか入ることができないという制約が あまり関係ないので古典理想気体であつかうことができる。 低温においては、絶対零度のフェルミ球がすこし広がっているだけである。
 次に解を得るという事に関しては、一般に解析できないので、 数値計算により求める必要があるが、 高温や低温という極端な場合には解析的に解ける。 
 以上のことが重要だと思いました。

一応、質問ということですが、 質問形式でなければ絶対採点されないかと聞かれれば、 そんな事はないです。 ただ、理解度を採点しているので、 授業で言ったことや教科書に書いてあることを羅列しても、 ポイントがわかっているかどうかわかりません。 むしろ、質問形式にしてもらって、自分で考えたこととか、 私が間違っていることとかを書いてもらう方が、 その人がどれくらい理解しているか分かりやすいです。

ということで、この場合もどれくらい理解しているか分からないので、 3点です。


質問. (採点結果: 3点)

(1)半導体中の電子の議論するときフェルミ分布が適応されます。 半導体中電子数が決まっていてもグランドカノニカル分布を適用できるのは、 電子の数が多いからですか? また、Valence band中の電子は自由電子でないので、 グランドカノニカル分布のように各エネルギー順位に入る電子を 独立に考える事ができますか?

この質問に対する答えは、物性物理学の方が良いかもしれませんが、 最初の質問については、この方の考えどおりで、電子の数が多いからです。 統計力学を習ったときは、孤立系ではミクロカノニカル、 熱浴に接していたらカノニカル、 さらに粒子だめに接していたらグランドカノニカル、 と教わったと思いますが、 実は粒子数を無限大にする極限でどれも同じになります。 したがって、粒子数が大きければ、 場合場合によって、集団を選ぶ必要はなく、 最も計算しやすいので構わないのです。

Valence band中の電子をなぜ独立にに扱えるかについては、 本当に物性物理学でやると思うので、あまり詳しく説明しませんが、 金属や半導体の中の電子は自由電子として扱う近似があり、 その近似が良く成り立つ場合があるということです。

(2)絶対0度にεFがはっきりと決まってしまい、 その順位に粒子が一コ入っていることが、 分かってしまうことは不確定性原理と矛盾しないかと疑問に思いました。 絶対0度で、εFにある粒子を観察すると、 何時間たってもその粒子は同じエネルギーεFのままでいられますか? 観察の過程によって粒子がエネルギーをもらい、 1つ上の順位にせんいすると考えられますか? せんいのための必要なエネルギーを与えないように注意すると、 粒子はεFのままでいられますか? εFより低いエネルギーの粒子についても同様な問題が考えられます。
Tが有限の場合、f(ε)がεF付近で1以下となっています。 粒子の平均数が1より低い値をとることは、 観察する時間によってその順位に粒子が見つかったり、 見つからなかったりすると言う意味ですか?

時間とエネルギーに対する不確定性は難しい問題があり、 量子力学の先生に聞いてもらう方が良いと思いますが、 まず、定常状態については、完全にエネルギーが決まり、 時間変化しない事は分かると思います。 つまり、定常状態ではエネルギーの不確定性はまったくありません。 そういう意味で、今の場合もεFと決まってしまって良いのですが、 じゃあ、時間とエネルギーについての不確定性原理は何なのか、 ということになりますね。 実際は完全な定常状態というのは、存在しないで、 必ず弱くても何か摂動が加わっているということです。 今の場合でいうと、電子同士の相互作用になります。 この摂動があると、それがどんなに弱くても、 必ずエネルギー準位間の遷移が起こります。 つまり、遷移が起こることにより、エネルギーが揺らぐように見え、 不確定性があらわれます。 摂動計算によると、この不確定性は、観測時間に依存して、 観測時間が短いと不確定性が大きくなり、観測時間を長くすると、 不確定性が小さくなることが示せます。 また、エネルギーの不確定性と観測時間の積が、 ちょうど、プランク定数に比例するという関係式も導けます。 結局、「せんいのための必要なエネルギーを与えないように注意」 することがもし出来るのならば、 粒子はフェルミエネルギーのままでいられます。

後半の方は確率とは何かということと関係しています。 絶対零度より高い温度では、 エネルギー準位がフェルミエネルギーに近いとき、 その準位の粒子数の平均値は1より小さくなります。 それは、粒子が1個入る確率が1より小さくなることを意味しているわけです。 確率の意味合いは、 「観察する時間により」見付かったり、見付からなかったり、 するというので だいたい良いのですが、 「観察する時間に」というところが、少しひっかかります。 観察する度にという言い方の方が私は好きですが、 一定時間観察していて、最初は粒子が入っていたのに、 時間が経つとその準位からはなくなっていたということになるかどうかは、 もっと他の仮定が必要です。 とにかく、くじを引くように何度も観察して、 粒子があった場合と、無い場合を数えれば、確率になると思う方が、 自然だと思います。

ポイントと関係の無い質問の扱い方は、 第4回 (5月10日)追加 に書きましたが、1つに付き3点満点で採点するということです。 この質問はそれぞれ、1点ずつで2+3=5点ですが、おくれて提出されたので、 3点です。


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