2004年度の記録
2005年 2 月 15 日(火)
[論文紹介] 担当: 梅崎 雅寛
Keiichi Edagawa, Pranabananda Mandal, Kaoru Hosono, Kunio Suzuki, and Shin
Takeuchi
PHYSICAL REVIEW B 70 , 184202 (2004)
AlCuCoSi からなる合金は、ある温度領域で準結晶になる。この論文では、電子顕微鏡により原子配置を撮影し、どのような緩和過程を経て準結晶特有の構造になるかを調べている。 画像の解析により、定性的にはフェイゾンフリップを起こしながら、構造が変化していることが分かった。 一方で、定量的な解釈のために、フェイゾンによる歪みの緩和を調べると、2つの緩和過程があることが分かった。
コメント>>
・単結晶の構造緩和の様子を写真に撮って解析。緩和の仕方を2種類に分類する ことができた。しかしながらそれらが実際どのような運動に対応しているのかは いまいちはっきりしなかった。(森)
2005年 2 月 8 日(火)
[論文紹介] 担当: 尾嶋 拓
コメント>>
・ハブがある結果スモールワールド???(森)
2005年 2 月 1 日(火)
[論文紹介] 担当: 藤江遼
コメント>>
・伝染病のモデル。感染の仕方を、ネットワーク上とそれ以外に分ける。 このことが結果にどう効いてきているのか、全く分からない論文。 著者自身はあれこれいじった末にたどり着いたモデルであろうから、 それなりの意味を感じているのでしょう、きっと。 読んでいる方には全く分かりません(僕は読んでないけど)。 それでもPhysical Reviewに載るのだから、 何か計算したらあきらめずに最後まできちんとまとめて 投稿しましょうねということだと思います。(森)
2005年 1 月 25 日(火)
[論文紹介] 担当: 田川文隆
D. Chakrabarti and B. Bagchi
Journal of Chemical Physics, Vol 120, number 24, 11678- (2004)
コメント>>
・『βプロセスの積み重ねで、αプロセスができてる』として、モデルを立てた。 ガラス転移のいろいろな特徴を再現できた。 αだけだと2準位系、βだけだとどうなるのか?モデルのどこが効いているのか 他の場合と比較しないと分からない。(森)
2005年 1 月 18 日(火)
[論文紹介] 担当: 桜井雅史
Ph. Wernet, D. Nordlund, U. Bergmann, M. Cavalleri, M. Odelius, H. Ogasawara, L. . Nslund, T. K. Hirsch, L. Ojame, P. Glatzel, L. G. M. Pettersson, and A. Nilsson
Science 14 May 2004; 304: 995-999 (2004)
コメント>>
・水の水素結合について調べていた:
固体表面や液体など様々なケースで吸光スペクトルを調べると、
似たケース毎に分類できた。それらの間の違いは、水素結合に依るものと考えら
れる。
このことなどから、液体の水の水素結合の数は、これまで言われてきた「4」で
はなく、「2」ではないか?という主張。
ただ、「水素結合」の定義自体もはっきりしないので、不明瞭な点が多い。
(以上、森)
2004年 12 月 21 日(火)
[論文紹介] 担当: 吉留 崇
Nicolas Giovambattista, C. Austen Angell, Francesco
Sciortino, and H. Eugene Stanley
Physical Review Letters 93,047801 (2004)
この論文では、水の分子動力学シミュレーションから比熱を計算することで、水のガラス転移温度を計算している。その結果、水のガラス転移温度はこれまで考えられていた温度よりも高いことが分かった。
コメント>>
・(背景)実験で、水の比熱に異常性が見られていた。ただし、系の温度を一定にする 時間帯を設けた(アニールした)ときのみ。
・(問題意識)その異常性は、ガラス転移? アニールしないと出てこない?
・(結論)MDシミュレーションの結果、アニールしたときは 比熱に「小さいピーク」と「大きいピーク」が見られた。 アニールしなかったときは「大きいピークのみ」。 この「大きいピーク」がガラス転移に対応すると考えられ、 「小さいピーク」はアニーリングの結果である。 実験で見られたのは、この「小さいピーク」。
・(一般知識として・・・)シミュレーションする場合、 熱浴の付け方で、比熱は変わってくる。 平衡状態でカノニカル分布と合うように熱浴を構成するが、 非平衡ではどうしよ〜、付け方がいろいろ。
・(疑問)アニールしたときに小さいピークが出る理由は? (以上、森)
2004年 12 月 14 日(火)
[論文紹介] 担当: 森史
Kim BJ
PHYSICAL REVIEW LETTERS 93 (16): Art. No. 168701 OCT 15 2004
ネットワークの静的な構造に対して、くりこみを考える。 2次元平面にサイトを固定されたスケールフリーネットワークに対して、 4つのサイトを1つとみなすくりこみを行なう。 数値計算の結果、次数分布のべきの値やヒエラルキカルな構造は、 この操作に対して不変であることが分かった。
>>コメント
・2次元に埋め込まれたスケールフリーに限り、このやり方のくりこみが有効。 それが、一般のネットワークに対してどれくらい通用するものなのか? サイトの"位置"が意味をもつネットワークは自然界にたくさんあるので、 そういう意味では有用かも。
・このやり方のくりこみで、うまくいく理由が分からない。 次数やクラスタリングが「べき的」であることと、 くりこみがうまくいくこととは理論的に関係しているのか??謎。(以上、森)
Hans-Rainer Trebin
(Institut fur Theoretische und Angewandte Physik der Universitat Stuttgart
JSPS-Scholar at the Department of Physics, Faculty of Science, Kyushu University)
In this tutorial a continuum description is presented for the static and dynamic behavior of icosahedral quasicrystals. Since diffraction spots of these solids are indexed by six integers, a lift of the quasiperiodic mass density function into a six-dimensional hyperspace is possible, which describes a periodic hypercrystal. The invariance of the crystal energy towards phase shifts of the basic Fourier modes is equivalent to six-dimensional crystal displacements in hyperspace. When these are transformed back to physical space in addition to the common three rigid “phonon” displacements three new “phason” types of displacement fields emerge. Both phonon and phason degrees of freedom can be incorporated into a generalized elastic theory. It is basis for the calculation of the static structure factor, which contains clear signals of phasons in the form of anisotropic peak broadenings. For the calculation of the dynamic structure factor the hydrodynamic theory for periodic crystals has to be generalized. Its main features are phasons propagating along with phonons and a phason-induced anisotropic damping of sound waves. When the phason variables are omitted, all results are valid for periodic crystals. Thus the lecture is also providing a systematic collection of relations by which the structure factors in these standard media can be calculated.
伊本 悠
系の粒子の構造が時間変化する系では,その上を伝播するキャリアは, 粒子の構造変化の影響を受けると考えられます。 その様子を考察するために,行っている研究について報告します。
過去になされた研究と低密度・高温側の振る舞いは似ているように見え, 高密度側の振る舞いは少し差異があるように見えることがわかりました。 そのほか,過去の研究ではなされていない,転移温度よりも低温側のデータも含め, 得られた結果について報告する予定です。
>>コメント
・スタートとゴールの壁の影響がある。 クラスター構造の影響だけを見たいならば、壁をなくしてはどうですか?という 意見あり。(森)
Hans-Rainer Trebin
(Institut fur Theoretische und Angewandte Physik
der Universitat Stuttgart)
Complex metallic alloys (CMAs) are intermetallic compounds whose large unit cells contain up to tens of thousands of atoms. A special case are quasicrystals where the unit cells can be viewed as infinitely sized. Just as in quasicrystals one finds in CMAs a substructure of clusters which can be rearranged by hopping motions. These motions are named “phason flips” by analogy to quasicrystals.
We will in particular consider the Ξ-Al-Mn-Pd phases ξ, ξ’ and ξn. The pattern of their cluster columns can be modelled by a simple projection formalism in three-dimensional space. They contain single phason defects which ? when subjected to uniaxial compression ? order into periodic phason planes. In this defect superstructure again topological defects can form which are termed “metadislocations”. It turns out that they are the textures of partial dislocations in the microstructure.
In this lecture I will first use animated graphics to demonstrate how the different Ξ-phases can be obtained by the projection formalism. Then phasonic phase boundaries and metadislocations are constructed and compared with HREM images from the literature. The metadislocations of lowest energy are determined and related uniquely to experimentally observed ones.
Our results demonstrate that systems with large unit cells can develop completely new modes for plastic deformation.
This work was done in collaboration with Michael Engel.
藤江 遼
アジアを中心に猛威をふるい、世界中に瞬く間に流行したSARS。世界各地に急激 にSARS患者の数が増していった背景には「SuperSpreader」の存在があると考え られている。
今回の発表では、SuperSpreaderを感染率の高い感染者としたモデルと、社会的 に接触の多い感染者としたモデルについて両者を比較しながら、現在までの結果 を報告する。
>> コメント
・
大久保 毅
近年、構造不規則系の物性を測定する実験手法として、試料の全体ではなく試料の一端に時間変動する摂動を加え、他端で応答を観測する境界摂動 実験が注目されてきています。セミナーでは、量子系での境界摂動実験に着目している私の研究について、現在までの結果を紹介します。
>> コメント
・
加治志織
(九州大学大学院理学府基礎粒子系科学専攻多体系基礎論II)
Co-Al-Oグラニュラー薄膜は磁性金属粒子が絶縁体のAl酸化物によって隔たれた構造を持つ金属-非金属グラニュラー物質である。この物質系ではCo濃度を調整することにより、その伝導機構は金属的なものから絶縁体にまで変化する。この物性を支配しているのは薄膜内でどのようなCo粒子のネットワークが形成されるかに依存している。今回用いた試料、Co 52 Al20 O28 はこの物質系の中でも金属的伝導とトンネル伝導との境界上に位置する。我々はこの物質において圧力により構造パラメータを制御することにより、電子物性と構造パラメータの関係を明らかにすることを目的として実験を行ってきた。その結果高圧下で電気特性及び温度依存性が大きく変化し、伝導機構は金属的なものへと近づいていった。この一因として、圧力によりCo粒子間の距離が減少し、そのために一部Co粒子間の新たな伝導パスができ、トンネル伝導が強調されたことが考えられる。
本セミナーではこれまでの測定結果とその簡単は考察を紹介して、圧力下での金属絶縁体転移の機構について考えたい。
>> コメント
・大変分かりやすくお話していただきました。
・圧力をかけることで電気抵抗や磁気抵抗が変化する様子が示された。 Coがパーコレートすることによる構造の変化に起因すると思われる。 ただパーコレーション転移点と思われるPcで特徴的な変化がはっきりと見られるわけではないようだ。
・「磁気抵抗」というのがなじみがうすい量でピンと来ませんでした。 磁場をかえると電気抵抗が変わる現象のことです。 普通の金属では磁場を増やすと抵抗は増えるらしいですが、この試料に対しては減っていました。(以上、森)
2004年 9 月 30 日(木)
[勉強会] 10:00-16:30
プログラム>> コメント[10:00 - 10:30] 「進化心理学から」 小田垣
[10:30 - 11:10] 「脳の仕組みと働き」 辻口
[11:10 - 11:50] 「脳と学習の代表的なモデル」 藤江
〜昼休み〜
[13:20 - 14:40] 「ドーパミンニューロンと強化学習」 梅崎・尾嶋
(前半) - - - - TDモデルと文脈に依存しない学習
(後半) - - - - 文脈に依存する学習
〜休憩〜
[15:10 - 16:30] 「ワーキングメモリ」 大久保・伊本
(前半) - - - - ワーキングメモリの性質
(後半) - - - - ワーキングメモリの数理モデル
・ワーキングメモリの数理モデルについて。
ホジキンハクスレーニューロンをグループ分けして、 グループ毎の発火が持続するかどうかを見る。 それにより「短期記憶」を非常にうまく再現できていた。 面白かった。 ただ、実際は、パラメータはたくさんあるので、 人為的なチューニングはかなりしているはず(?) (←生理学的に分かってることから決めたらしいけど)。 よくチューニングしきれたなぁという印象。
結合そのものは全結合にして 結合の強さに強弱を入れていたけど、 結合強度一定にしてネットワーク構造を変化させることで 同じことができないかな??? (以上、森)
2004年 9月9日(木)
[論文紹介] 担当 : 藤江遼
Peter Shridan Dodds and Duncan J.Watts
Phys. Rev. Lett. 92(21), 218701 (2004)
従来の疫学モデルには、各個体が接触したとき独立に確率pで感染するモデルと、接触した個体数がある閾値を超えたときに感染するモデルがある。しかし、これらのモデルの特徴がどのように振る舞いに影響しているのかわかっていない。 それを理解するために、この論文では、2つのモデルの要素を取り入れた過去の影響を記憶するモデルを用いた。その結果、ダイナミクスに3つのクラスがあること、またどのクラスに属するかは、モデルの詳細によらず、記憶できる時間と2つのパラメタで決まることを示した。>>コメント
・理論計算の論文。感染者の割合の定常解は、 「1人から菌をもらった時に感染する確率」と 「2人から菌をもらった時に感染する確率」と「記憶できる時間」 の3つの値で分類されることが分かった(らしい)。
・明確に書かれていない部分が多く、非常に分かりづらいLetterだった。 Full paper に期待したい。(以上、森)
M1
田島奈緒子
1949年に心理学者のD.O.Hebbは、シナプス前細胞と後細胞の双方が発火したと きに両細胞間のシナプス伝達効率が高まるという学習に関する仮説を提唱した[1]。 今日このHebbの考え方に基づく学習則が正しいものであるかを確かめるべく多く の実験がなされ、その実験から得られた事実に従ってさまざまなモデルが提唱さ れている。
Hebbが提唱した学習則を裏付けるものとして、シナプスの長期増強(LTP:long-term potentiation) と呼ばれる現象が知られている[2]。これはシナプスの長期減弱 (LTD:long-term depression)と呼ばれる現象と共に、細胞レベルでの学習・記憶 を説明する機構だと考えられている[3]。
シナプス前細胞と後細胞の発火時間の一致性に加えて、発火のリズムがシナプ スの可塑性(伝達効率の変化)にとって重要な役割を果たしているという議論が ある。海馬は短期記憶の情報処理に関係があるといわれており、リズム活動が観 察されている。海馬は解剖学的にCA1、CA2、CA3及び歯状回に分けられるが、中 でもCA3領野でリズム活動が観察される。CA3で観察されるリズムには、θリズム、 δリズム、癲癇様リズムなどがある[4]。Tsukadaらは、CA3にθリズム(10Hz) の刺激を加えた時とカオス刺激を加えた時にCA1錐体細胞でLTPが起こるという実 験結果を報告している[5]。
これらの研究を考慮して、16×16個の錐体細胞と25個のバスケット細胞から成 るCA3ネットワークから、CA1錐体細胞が信号を受けとるネットワークモデルを構 築した。このシナプスのモデルにカルシウム濃度に依存してシナプスのLTPとLTD が起こる仕組みを加え、CA3がθリズムとδリズムで活動している時のCA1錐体細 胞のシナプス可塑性について数値計算を行った。神経細胞モデルにはHodgkin-Huxley 型の微分方程式[6][7]を用い、カルシウム濃度に依存するLTP、LTDを発現するモ デルには、Kitajimaらのモデルを用いた[8]。これによって得られた結果は、CA3 がθリズム(10Hz)とカオスの時にCA1錐体細胞でLTPが起こるというTsukadaら の結果と定性的に一致した。
本研究での知見は単に生理学実験に基づくモデルを構築し、数値計算によって 実験結果を実証しただけに留まらず、今後記憶システムを解明し、理論を構築す ると共に、ヒト型記憶デバイスの開発等の工学的応用に寄与するものと考える。[1] D. O. Hebb: The Organization of Behavior (1949)
[2] T. V. P. Bliss and G. L Dollingridge: Nature 361 (1993) 31-39
[3] S. Fujii, K. Saito, H. Miyagawa, K. Ito and H. Kato: Brain Res. 555 (1991)112-122
[4] S. Ishizuka and H.Hayashi: Brain Res. 790 (1998) 108-114
[5] M. Tsukada et al.: Biol. Cybern. 70 (1994) 495-503
[6] K. Tateno,H. Hayashi and S. Ishizuka: Neural Networks 11 (1998) 5-23
[7] M. Yoshida et al.: Neural Networks 15 (2002) 1171-1183
[8] T. Kitajima and K. Hara: Neural Networks 13 (2000)445-454
>> コメント
・とても基本的な事柄からお話してくださったので、分かりやすかったです。
・上にあるように、「LTPとLTD が起こる仕組みを加え」ているところがポイント。 ここの「仕組み」のパラメータを変えてしまうと結果の周波数も変わってくるはず。 「仕組み」とその適当なパラメータを選ぶことで、 実験を再現する結果が得られている。 (森)
2004年 7月21日(木)
[報告] 担当 : 森史
6/29〜7/15まで、上の会議に参加するためにシンガポールおよびフランスに行っていました。この会議に関する簡単な報告をします。>>コメント
・フランスでの会議の食事はすばらしかったです。(森)
2004年 7月15日(木)
[報告] 担当 : 吉留崇
6/25〜7/1まで、上の会議に参加するためにインドに行っていました。この会議に関する簡単な報告をします。>>コメント
・非常に慎重に食事を摂っていたのがよく分かりました。(森)
2004年 7月8日(木)
[論文紹介] 担当 : 辻口雅
R.Huerta-Quintanilla , M.Rodriguez-Achach
Physica A 337(2004) 555-564
有殖動物は、両親の形質を完全には引き継がずに、多少のズレを加えて継承している。それは周りの環境に生物がより適応していくために(進化という意味で)必要な要素である。この論文では、簡単な環境適応性のシミュレーションを行い、このズレが大きすぎても小さすぎても問題があり、最適のズレが存在することを再現している。>>コメント
・導入部で、社会物理の様々な例を紹介してあり、以降の話のイメージが掴みやすかったと思う。
・社会物理のシミュレーション。環境の変化と、子が親から形質を引き継ぐときの変異を
考慮したモデル。変異率・環境の厳しさ・一度に出産する子の数・産んだ子を配置できる領域
のサイズをパラメータとして、生存率を調べる話。
・生存する環境が悪化するほど、変異率が重要な要因になるらしい。
この結果が各個体の個性を反映をしている結果なのかは分からないそうだ。
・グラフの形状が、個体の生存確率を与える式の形に依存している。
(以上、梅崎)
2004年 7月1日(木)
[論文紹介] 担当 : 尾嶋拓
Erzsebet Ravasz and Albert-Laszlo Barabasi
Phys.Rev.E 67 026112
世の中には次数とクラスター係数がベキ分布になるネットワークが存在する。しかし、従来のスケールフリーモデルでは次数の分布は説明できるが、クラスター係数の分布は説明できない。そこで、この論文ではヒエラルキカルネットワークという新しいネットワークを提案し、両分布の説明に成功している。>>コメント
・話すべき内容が、よくまとめられていて分かりやすかった。
・ヒエラルキカルネットワーク。1つの小クラスターの周りにコピーを配置し、
中央のノードとコピーしたクラスターの周縁のノードとをつなぎ合わせ、
この操作を繰り返し行うことで得る。
得られたネットワークは、クラスター係数と次数の分布がべき分布に従い、
今回例示された実際のネットワークの性質に合うという話。
・BAモデルと異なり、クラスター係数のノード数に対する平均値が、
ノード数そのものに依存しない。無限系を考えていることに相当するらしい。
・構造はフラクタルであるが、クラスター係数や次数の分布に直接関係するかは
分からないらしい。
(以上、梅崎)
2004年 6月24日(木)
[論文紹介] 担当 : 梅崎雅寛
Christoph Rudhart, Hans-Rainer Trebin, Peter Gumbsch
J. Non-Cryst. Solids 334&335 ,453 (2004)
準結晶は、通常の結晶には見られない特有の構造のために、多くの物性が測定されている。この論文では、荷重を掛けたときの亀裂の伝播に興味が持たれている。そこで、2次元の準結晶のモデルに亀裂を生じさせ、亀裂の先端の位置・速度を温度・荷重を変化させながら調べている。シミュレーションからの結果を基に、低温側と高温側とでの亀裂の伝播の振る舞いの違いを議論している。>>コメント
・準結晶らしさが現れるポイント、それがどこらへんなのか、いまいち分かりませんでした。「クラスター」のあるところで亀裂が止まりやすいのは直観と合ってた。 準結晶には2種類あって、「完全」なのと「ランダム」なの(説明略)。 実際に存在するのはどちらかよく分からないそうです。(以上、森)
2004年 6月17日(木)
[論文紹介] 担当 : 伊本悠
Masanori Inui,Xinguo Hong,Kozaburo Tamura
Phys. Rev. B 68, 094108 (2003)
液体水銀を臨界点近傍までもって行くと,その途中で,物性が変化し,導体から絶縁体へ転移することが知られている。そのメカニズムは現在も研究が進められているが,水銀の配位数に密接な関係があるのではないかといわれている。そこで,この論文では,SPRING-8において,臨界点近傍の水銀の散乱実験を行い,これまでの研究と比較しつつ,その配位数などについての議論を行っている。>>コメント
・今週からM1に突入しました。すばらしくよく準備できてました。 ハキハキしてたので良かったです。
・金属 - 非金属転移が、配位数の変化によるものだという主張。 液体を調べる時に、結晶の構造を参照することがよくあるが、あまりよくないのでは? って言われてました。結晶構造を取っているようなイラストは誤解を招きやすい。 (以上、森)
2004年 6月10日(木)
[論文紹介] 担当 : 田川文隆
Cristiano De Michele et al.
cond-mat/0405282
この論文では、ソフトコアのシミュレーションから、ソフトコアの“硬さ”と フラジリティーの関係を明らかにすることが主眼に置かれています。 最初に、ソフトコアの“硬さ”を変え、拡散係数を計算し、 フラジリティーはソフトコアの硬さに依存しないことを示しました。 また、アダムギブスの関係式を使い、拡散係数の温度依存性から、 configurational entropyを求め、ソフトコアの硬さとの関係について議論しています。
2004年 6月3日(木)
[論文紹介] 担当 : 久保田陽二
Mitsuo Wada Takeda, Soshu Kirihara, Yoshinari Miyamoto, Kazuaki Sakoda and Katsuya Honda
Phys. Rev. Lett. 92, 093902 (2004)
メンジャースポンジという3次元のフラクタル図形を実際に作成し、電磁波を入射 した。その結果、入射波が試料中に閉じ込められる現象を発見した。 (この現象は、有害な電磁波から人体や電子機器を守る防壁の材料、効率の良いア ンテナ、脳の診断や解明、充電の要らない電池…などへの幅広い応用が期待される。)>>コメント
なぜ局在させることができたかとかフラクタルと何か関係があるのかとかは今のところ何も分かっていないらしい。 局在する電磁波の、試料サイズ依存性もみていないので、議論のしようがない。 特に気になるのは、局在した電磁波の大きさが入射波に対してどのくらいの大きさなのかということ。
閉じ込められた電磁波は結局は中で熱に変わってしまう。 新聞にあったように、 電磁波を集めることはできるが、それはエネルギーの「宝箱」にはならない。(森)
2004年 5月27日(木)
[論文紹介] 担当 : 桜井雅史
Florian S. Merkt, Robert D. Deegan, Daniel I. Goldman, Erin C. Rericha, and Harry L. Swinney
Phys. Rev. Lett. 92, 184501 (2004)
こちらの 実験。
液体にコーンスターチやガラスの粉を混ぜ、上下に振動させる。 作った穴が安定に存在したり、"指"が生えてきたり。不思議な現象が見られる。 なぜ見られるのかは今のところ全く不明。 偶然見つけたらしい。 振動によって、Viscosityが大きくなる 「Shear thicking」と関係があるかもしれないということ。 (←Shear thicking が見られない系では、今のところ見られていないから) しかし、「Shear thicking」が起こるところの周波数と、 今回の不思議な現象が起こる周波数は全然違うので、どういうことになってるのか よく分からない。とにかく、何も分かっていない。
秋山 良
(九州大学大学院理学研究院化学部門)
タンパク質溶液中ではタンパク質の濃度や大きさによって結晶化やゲル化などの凝集が 起こる。これらの現象に対しては排除体積に着目した説明が試みられてきた。排除体積 効果について簡単に説明する。溶媒に大粒子(タンパク質)と中粒子(溶質)が溶けて いる系を考える。大粒子どうしが近付いた時には、排除体積に重なりができて、溶質分 子の動く事の出来る領域が増加する。この結果、全系のエントロピーが増大し、大粒子 間に平均力としての引力が発生する。この排除体積効果の最もシンプルな理論として、 朝倉ー大澤理論がある。この理論では溶質の濃度と粒子の半径を用いて大粒子間の平均 力ポテンシャルを解析的に計算できる。ただし、朝倉ー大澤理論では溶媒を連続体とみ なしており、さらにこの理論は溶質濃度が希薄な極限で正確である。しかし、タンパク 質の大きさは溶媒に比べて十分大きいとは言えず、連続体とみなす事には無理がある。 さらに溶媒をあらわに粒子として扱う場合、希薄溶液の取り扱いはできない。そこで、 こうした問題に対して単純なモデルの範囲で液体の積分方程式を用いた研究を行った。
以上の萩原康寛君の卒業研究の内容を、背景を拡張して秋山が紹介する。
>> コメント
セミナーの後に聞いたお話です。
「従来は、溶媒を連続体とみなし」とお話されていましたが、 従来の理論は、「溶媒の部分を真空」とみなしているのが正確な表現らしいです。 なので、 従来のと今回のにおける、 2体間の`ポテンシャルのようなもの'の比較が主な結論だったと思いますが、 厳密には充填率の違うものを比べていることになっているらしいです。 なので、見られた違いのいくつかは その効果に依るものだと考えられます。 その効果を除いてもなおも違いが見られれば、より面白いと思います。(森)
小山 暁
(九州大学理学研究院凝縮系科学専攻学術研究員)
本研究では、高分子モデルを用いた分子動力学シミュレーションを行い、高子系に見られる 緩和現象と特性長の関係を検証した。
高分子は複数のモノマーが一次元的に繋がった化学構造を持ち、長く繋がった分子鎖に沿っ ていくつかの特徴的な距離(特性長)が現れる。高分子系に見られる緩和現象はこれら特性長と 関連付けて語られることが多い。他のガラス形成物質同様、高分子では(1)速い過程、(2) 局所緩和過程、(3)α緩和過程、という3つの緩和過程が見出される。これらのうち、(2) 局所緩和過程は数個のモノマーが関連した現象とされており、持続長と呼ばれる特性長と関連付 けられる。また、(3)α緩和過程は高分子の絡み合い点間の分子鎖が関連した現象とされてお り、絡み合い点間分子量という量と関連付けられる。しかし、緩和過程と特性長の関係を実験的 に直接確かめることは難しい。分子動力学シミュレーションは直接目で見ることのできない、分 子レベルの現象を可視化することのできる非常に強力なツールである。
発表では、まず、高分子系に見られる特性長について概観し、融点以上の温度からの一定冷 却速度-冷却シミュレーション、一定延伸速度での延伸シミュレーション、一定温度での緩和シミ ュレーション、の結果を紹介する。
>> コメント
イントロで興味深かったのは、 たんぱく質が絡まり始める(と思われている)臨界的な長さがあるらしい というところ。 本当に絡まっているのならばシミュレーションで出るのかな??? 難しそうだ。実験で観測されているのは何なのだろう。(森)
2004年 5月6日(木)
[論文紹介] 担当 : 大久保毅
Jae Dong Noh and Heiko Rieger
Physical review letters 92(11), 118701 (2004)
(アブストラクト) ネットワーク上の運動では、サイト同士の全体的なつながりが重要であると考えられる。この論文では、あるサイトを出発した粒子が他の特定のサイトへ初め て到達する時間(first-passage time )に注目してサイト同士のつながりを特徴付けている。First-passage timeの解析から、「サイトに集まるボンドの数」と「そのサイトを特徴付ける緩和時間」の比で与えられるrandom walk centrality (RWC)と呼ばれる量が情報を受け取る速度を決定している事が明らかになった。セミナーでは理論的な解析と数値実験の結果を紹介する。
>>コメント
・内容はアブストの通り。 各サイトの「(時間まで含めた)情報の受けとりやすさ」は、 random walk centrality (RWC)が決定しているという話。 RWCは、「サイトに集まるボンド数」と 「緩和の仕方、つまり、ネットワークを表す隣接行列の固有値、 固有ベクトルと関係したもの」の比で決まる。 つまり、「サイトそのものが持つローカルな特徴」と 「ネットワーク全体が持つグローバルな特徴」との比。
・「固有ベクトル=グローバルな特徴」であるが、 固有ベクトルをネットワークの構造の特徴で説明できればとてもうれしい。 とりあえずこの論文ではそれはできていない。 それが可能なのかどうかも分からないが一番重要な問題である。
・「ファーストパッセージタイム」と一番だらだら緩和する「遅い」モードが関係しているのはなぜか分からない。早いと遅いの日本語が逆になってるのはなぜ???
・本題とは離れるが、ランダムウォーク。 きょうのように「そこに留まることを認めないモデル」と 「そこに留まることを認めるモデル」は全く振舞が違うということは はずかしながら驚き。 定常解を見ても、前者は偏りがあり、後者は一様解。超基本的事実の確認。(以上、森)
2004年 4月22日(木)
[論文紹介] 担当 : 吉留崇
M.Vogel, B.Doliwa, A.Heuer,and S.C.Glotzer
JOURNAL OF CHEMICAL PHYSICS 120,4404 (2004)
(アブストラクト) ガラス転移点近傍では、ランドスケープの極小間の遷移が重要である。 しかしこれまでの研究のほとんどは、ランドスケープの極小に関するものであった。セミナーでは、ポテンシャルエネルギーランドスケープの極小間の遷移における、系の構造変化について議論した論文を紹介する。
>>コメント
・発表用にトラペが準備できていたのは非常に良かったと思います。
・2種粒子のMD。ポテンシャルエネルギーランドスケープを考える。 ほぼ同じ極小値のベイスンを集めたものをメタベイスンと呼び、 ベイスン間の遷移とメタベイスン間の遷移を比較。 メタベイスン間の遷移では、ストリングモーションという球撞き型の運動が多く観測されましたという話。
ストリングモーションは必ずしも観測されるというわけではないらしいので、あまり重要な感じはしなかった。 2段階の緩和とはとりあえず何の関係もつかなかった。 ただ、波数を変えてみると、もしかしたら関係付くかもしれないらしい。
ガラスに詳しい人でも特に面白いとは思えてなかったような印象。 ここの近辺では、ポテンシャルエネルギーランドスケープよりも自由エネルギーランドスケープの方が意味があると思っている模様。(以上、森)
Milo R, Itzkovitz S, Kashtan N, Levitt R, Shen-Orr S, Ayzenshtat I, Sheffer M, Alon U
SCIENCE
303 (5663): 1538-1542 MAR 5 2004
(アブストラクト) 自然界や社会に存在する様々なネットワークは それぞれのサイズや連結性に様々な違いを持つ。 それゆえに、それらのネットワークの構造を比較するのは難しい。 そこで、 significance profileという量を導入した。 これにより、 局所的なネットワーク構造の類似性を系統的に調べることができた。 解析の結果、 似たようなsignificance profileを持つネットワークの集まり がいくつか存在することが分かった。
>>コメント
・初めて聞く人に対して説明不足だった。 モチベーションのところはもう少しうまく説明したかった。 どうしたらいいのか分からないけど、、、。(森)
・ネットワークの局所的な構造をうまく定量化できていたと思う。 異なるボンド数でも構造が「似ている」と判定できることは不思議。 手間暇かかることが難点か。 ネットワークの「構造」と「機能」を結び付けることが、 この先の課題。(森)